暑くなり、食べ物が腐り易い季節になった。皆さんも悪くなった物を食べ、体調を
崩してしまったなんて経験があるだろう。何故腐った物は体に良くないのか。そこ
には微生物の活動が関わっている。
今回は進化生物学の観点から、その答えに迫ってみたい。

 世の中には微生物が大量に含まれる食品が多くある。それらを食べても平気な
ことから分かる通り、微生物の存在自体は物を腐らせ、体調を崩す直接的な原因
ではないのだ。
  進化生物学では、栄養価の高い資源が点在する場合、その資源を利用する生
物は、競合者を追い出して、資源を独り占めするように進化すると予測している。

 では、微生物にとって競合者とは誰だろうか? その資源が肉や野菜であるなら、
競合者は人間を含めた動物なのだ。この場合、我々に資源を利用されてしまわな
いよう、微生物たちは動物に対抗する毒素を作り、資源を独占しようとする。
これが、我々の食べ物に微生物が繁殖すると腐り、食べられなくなる進化的原因
である。

 一方で、微生物たちにとっての競合者が、人間ではなく、他種の微生物である場
合、我々にとって役立つこともある。競合する微生物を排除するための毒素が進化
するからだ。
ペニシリンをはじめとした抗生物質や、お酒でおなじみのエタノールは、その進化に
よって生まれた対微生物用の毒素である。これらの毒素は、現代医学には無くては
ならない物質であり、人間の生存率を劇的に向上させてくれている。

 このように微生物たちは、我々と食べ物を競い合う相手であるとともに、近代文明
を支えるパートナー
でもある。

 もし食べ物を腐らせてしまったら、そんな微生物のことを思い出して、進化の壮大な
物語
に思いを馳せてみるのも一興だろう。

                            高田 守先生の  生き物語り  より