”「飽きた」は脳疲労の最初のサイン”
 
 長時間のデスクワークやパソコン作業などで脳を使い続けると、こめかみのあたり
が重くなる、頭がボンヤリする、肩が凝るなどの体の部位に何らかの症状が現れる、
と同時に、「飽きた」という感覚を覚えることがあるでしょう。それらはまさに脳が発す
疲労のアラームですが、このうち、「飽きた」という感覚は、脳そのものが疲弊 して
きているという警告として注目する必要があります。

 デスクでパソコンを使い続けるなどの作業を長時間やっていると、脳のある一定の
神経回路に負荷が集中することになります。腕や脚など体の部位で同じ動きを反復
しているとそこが怠く感じてくるように、脳の一つの神経回路を繰り返し使っていると
その部分の神経細胞が「酸化ストレス」により疲弊することがわかっています。

同じ神経細胞ばかり使っていると、その神経細胞は酸化ストレスにさらされ、「もうこ
れ以上この神経細胞を使わないでくれ」という信号を発します。これが、「飽きる」
いう感情となって表れるのです。

 「飽きる」というサインを無視すると、次には「疲れる」「眠くなる」というサインが出て
きます。疲労を警告するにあたり、「疲れる」という感覚の前に「飽きる」というサインが
先に出てくるのも、人の生体に備わった防衛システムと言えるでしょう。

 「飽きる」「疲れる」「眠くなる」脳疲労のサインです。この3大サインを無視して作
業を続けていると、次には「視野が狭くなる」という症状が現われることがわかってい
ます。

目で見て気づく、見つけることが出来る範囲を「周辺注意力視野」と呼びますが、この
周囲注意力視野が狭くなってくるのです。その根本的な理由は、人の脳は視覚 から
90%近くの情報を得ているという点にあります。

視覚からの情報はそれほどに量が多いため、当然、脳に対する負荷は大きくなります。
そこで脳疲労 が溜まり始めると、脳が周辺注意力視野 を狭めて視覚情報の量を意図
的にコントロールし、減らそうとする ホメオスタシス が働き、脳疲労を抑 えようとするの
です。

 ”眼精疲労の原因は自律神経にある”
 
 医学的には、疲れ目眼精疲労 は区別されています。休息をとれば回復する場合が
「疲れ目」で、休息や睡眠をとっても目の痛みやかすみ、充血、眩しさなどに加えて頭
痛、肩凝り、吐き気、めまいなどの症状が残る、一時的に回復しても症状がぶり返して
治療が必要な状態を「眼精疲労」と言います。

目はパソコンを見るときのように近くにもピントが合いますし、遠くの山々にもピントを
合わせることが出来ます。その自由自在のピント合わせを可能にしているのが、目の
レンズに相当する水晶体の両端についた、毛様体筋 という筋肉です。

こうしたピント合わせをコントロールしているのが、自律神経なのです。交感神経 が優
位になると毛様体筋が緩み、レンズが薄くなって遠くに ピントが合います。また、副交
感神経 が優位になると毛様体筋が縮み、レンズが厚くなって近くに ピントが合います。

自律神経と目のピント合わせの基本的関係は、ヒトが野生の環境に暮らしているとき
に確立した仕組みと考えられています。いち早く外敵や獲物を発見するために緊張時
交感神経が優位になって遠くに焦点を合わせ、それ以外の、遠くを監視する必要が
ない時は副交感神経が優位になって休息し、食べ物や仲間など近くにピントを合わせ
ていたと推測されます。

 故に、目の解剖学的構造も交感神経優位では遠くに焦点が合うように設計されてい
るわけです。

 しかしながら、眼精疲労に悩んでいる ビジネスパーソンは、野生の環境で暮らしてい
る時とは正反対の状況に身を置いています。仕事をしている時は緊張感で交感神経
優位になっています。交感神経は遠くに焦点を合わせようとしますが、デスクワークで
は近くに焦点を合わせる必要があります。

近くにピント合わせる時は本来、副交感神経が優位になるはずのため、自律神経の作
用に矛盾 が生じます。
そんな状態が長く続くと自律神経の中枢が疲弊し、それが眼精疲労 として表出します。

 眼精疲労とは「自律神経を混乱させて、疲弊させるような真似はやめなさい」 という 
自律神経の中枢からのアラームにほかなりません。
デスクワーク中は頻繁に席を立って休憩をとり、遠くの景色を眺めるなどして、出来るだ
交感神経と副交感神経のバランス をとる必要があります。

 ”スポーツや楽器演奏での反復練習が「飽きない」理由”

  ゴルフやテニスのスイングのように、スポーツでは同じことを反復するトレーニングを
行いますが、飽きるということは少ないでしょう。それは、反復練習が求められるスポー
ツの動きには、刺激やストレス、加齢 による疲れが生じにくい小脳 が関わっているか
らです。
 
 ゴルフやテニスのスイングような動きをマスターすることを、脳科学では「手続き記憶」
と呼んでいます。脳に収められている記憶には「エピソード記憶」「意味記憶」、そして
「手続き記憶」という3種類があります。

 「エピソード記憶」 とは、個人が体験したイベント(出来事)の記憶です。「テレビで錦織
選手の活躍をみて感動した息子がテニスを始めた」という感情や時間などを含む個人的
な記憶です。

「意味記憶」 とは、「テニスは、コート内でボールを打ち合うスポーツ」といった、ものごとの
常識的な意味を表す一般的な知識・情報 についての記憶を言います。

「手続き記憶」 とは、テニスのサーブ、自転車の乗り方、パソコンのタッチタイピング、楽器
の演奏のように、同じ体験を反復してマスターする動作のことを言い、「体で覚える記憶」
とも表現します。

「エピソード記憶」と「意味記憶」は大脳 が、「手続き記憶」は小脳 が大きな役割を果たして
います。大脳にインプットされている「エピソード記憶」は加齢 によって薄らいでいきます。
また、認知症 になると「意味記憶」 も障害されるケースがあります。しかし、小脳の機能
加齢によっても失われにくいという特徴があります。

 反復練習を通して、一度自転車に乗れるようになったり、スキーを覚えたら、何年経って
も乗ったり、滑ったり出来るでしょう。このように、一度小脳 にインプットされた「手続き記憶」
は長期間にわたって消えることはなく、無意識に毎回同じ動きが出来るようになります。

 このように、「手続き記憶」は疲れにくい小脳 にインプットされているので、脳疲労に繋がら
ないと言えるのです。
                                                 次回に続く

                                ”すべての疲労は脳が原因” より抜粋