「ゆらぎ」のある生活で脳疲労を軽減”
 脳疲労を軽減するには、自律神経の副交感神経を優位にして脳と体の活動を休息
モードにする必要がありますが、これまでの研究で、森林の様々な要素が副交感神経
を優位にすることがわかっています。実際、森林を散策する、森の奥の滝ツボに行くな
どすると、疲れが癒され、リフレッシュする感覚があると思います。

 森に癒しを求める「森林浴」では、樹木が発している香りの成分「フィトンチッド」にリ
ラックス効果があると言われています。
  また、滝ツボやビーチのような水際では、水の細かいしぶきから「マイナスイオン」
発生しており、このマイナスイオンにも疲れを癒してくれる作用があると言われています。

 しかし、フィトンチッドには殺菌作用は確認されていますが、疲労を軽減する作用はみ
つかっていません。また、マイナスイオンは科学的にその癒し効果を実証する以前に、
存在そのものが曖昧なのです。マイナスイオンという言葉は和製英語であり、日本以外
の国々では研究の対象にもなっていません。

 では、リラックス作用をもたらすものがフィトンチッドでもマイナスイオンでもないとしたら、
一体何が森林のヒーリング効果をもたらしているのでしょうか。

 その答えは、「ゆらぎ」にあります。「ゆらぎ」は、脳疲労を軽減することが解明されてい
ます。

 森を歩くと木漏れ日が輝き、そよ風が何処からともなく体をそっと撫でていきます。耳を
澄ますと川のせせらぎ、鳥の鳴き声が聞こえてきます。滝ツボでも、空気中に舞い上がっ
た細かい水の粒子がランダムに広がっています。風の強さや方角は常に変わり、温度も
湿度も、滝が流れ落ちる音も微妙に変化しています。

 このように、一定の平均値から微妙にずれたある程度の「不規則な規則性」を持つ現象
を、「ゆらぎ」と呼びます。「カオス」という言い方をする場合もあります。
森は、最も「ゆらぎ」に満ちた空間環境なのです。

 "生体に「ゆらぎ」があるから自然環境は心地よい”
 なぜ、人は「ゆらぎ」を心地よいと感じるのでしょうか。
 それは、自然環境に存在する人の体も常に揺らいでいるからです。自然環境の「ゆらぎ」
人体の「ゆらぎ」がシンクロすることが心地よさをもたらしていると考えられます。

 自然界に一定な事象はありません。自然環境のあらゆる事象は常に「ゆらぎ」を持ってい
ます。 
 人の生体活動にも、「ゆらぎ」があります。
 脳波を計測すると、その曲線は毎回ズレています。心臓の拍動数である心拍数も、刻々
と変化します。このことは、ヒトの体が「ゆらぎ」ながらコントロールされていることを示して
います。

 人の生体活動として、心拍、脳波、呼吸、体温、血流、血圧などを計測した場合、計測値
に最もノイズが少ない状態の「ゆらぎ」が観察できるのは、目の瞳孔です。

 瞳孔の大きさをコントロールしているのは、自律神経です。自律神経は常に「ゆらぎ」を持
っており、それが瞳孔の大きさにも反映します。交感神経が優位になると瞳孔は開き、副交
感神経が優位になると瞳孔は閉じていきます。また、正しい視覚情報を得る上でも瞳孔の
揺らぎは大きな役割を担っていることが知られています。

 目は脳のすぐ近くにある器官なので、自律神経を観察する場合は、瞳孔径(瞳孔の大きさ)
の「ゆらぎ」を追ってデータを記録していきます。
人の体で自律神経を観察する場合は、不要なノイズに惑わされることがない瞳孔の「ゆらぎ」
を追うのが適切であり、疲労測定のバイオマーカーの役割をも担います。

”「ゆらぎ」で疲れにくい環境を作る”
 自然環境に代表される「ゆらぎ」には、疲労回復効果があります。
 ストレスが多い環境下では、緊張や興奮時に働く交感神経が常に優位になっていますが、
人は「ゆらぎ」の環境に置かれると心地よさを感じ、交感神経に代わって心身を休息モードに
切り替える副交感神経が優位になります。
 そのため、ストレスや疲労が軽減することがわかっています。

 オフィスや居住空間で快適と感じる室温や湿度で作業をしていても、それが長時間同じであ
ると「ゆらぎ」がなくなり、人は疲れ易く眠気を催しやすくなります。 
 デスクワークや運転中など、空間でじっと同じ姿勢を続けている状況でも、適度に動いて空
間や姿勢に「ゆらぎ」を加えることがいかに大切かということです。

 
 かって、日本人は「ゆらぎ」を大切にする暮らしをしていました。
 国土の70%近くを森林が占める日本列島は四季の変化に富む気候に恵まれ、「ゆらぎ」
満ちています。日本家屋は木造で、小さな庭で自然を楽しみ、フスマを多用することで風や光
を巧みに取り入れる造りになっており、年中行事で自然や四季の変化を楽しむ文化が根付い
ています。

 しかし、今の日本人は過労死の危険性が社会問題になる程、疲れが溜まる環境に生きてい
ます。「ゆらぎ」のない現代的ビルのオフィス空間で長時間働き、理想的な「ゆらぎ」を持つ日本
家屋を捨てて自然とは隔絶された住宅に暮らす生活は、疲れを溜め込む一因になります。
 そろそろ違ったライフスタイルを考えるべき時に来ているのだと思います。

"「緑青の香り」が疲労を軽減”
 生活空間に「ゆらぎ」を与える方法の一つに、「香り」があります。
 アロマテラピーでは一般的にラヴェンダーカモメールなどの香りにリラックス作用や疲労回復
作用があると言われています。好きな香りを嗅ぐと誰でもリラックスするため、その香りが好きな人
ならば、疲労感は軽くなる可能性がありますが、嫌いな場合は疲労感は軽減されず、疲労が回復
することもありません。

 現在、抗疲労効果が科学的に確かめられている香りが一つだけあります。
 それは青葉アルコール青葉アルデヒドの香りです。これは植物が発する緑葉成分であり、芝
を刈ったり、緑茶の缶を開けたりした時に漂ってくる香りです。特に新茶の葉は、青葉アルコール
濃度が高いことで知られています。両者を合わせて「緑青の香り」と呼びます。

 ヒトを対象とした実験で「緑青の香り」の効果は確認されています。
 その香りの成分が鼻腔の奥に並ぶ嗅細胞を刺激し、その刺激が感覚神経を介して脳の神経細胞
へ入力され、脳の機能を高めて疲労を抑えるのだと考えられています。

 「緑青の香り」は芳香剤や精油としても販売されていますが、アロマディフューザーを使う時には、
同じ濃度でずっと香らせるのではなく、タイマーなどで強弱をつけて香らせると、より「ゆらぎ」が生じ
て、相乗効果で抗疲労作用が高まることがわかっています。

 しかし、イミダペプチドと違い、「緑青の香り」は、即効性が高い一方で、抗疲労作用はその場限り
のものです。その特徴をふまえ、眠る直前や仕事などで疲れが溜まりそうな時に「緑青の香り」を嗅
ぐという使い方が効率的でしょう。
                                   ”すべての疲労は脳が原因” より抜粋