"ワーキングメモリを鍛える"
 疲労に強い脳 を作るために重要な方法として、「ワーキングメモリ」を鍛える ことが
あります。

 「ワーキングメモリ」 とは、リアルタイムでインプットされる情報 (短期記憶) を受け入れ
ながら、過去の記憶、学習、理解など(長期記憶) と結びつけて複数のことを同時に考え
る、また行うことを可能にする脳の力、一連の動き を言います。

 「ワーキングメモリ」 の中枢は、知的機能を担う大脳の前頭葉の前頭前野 にあると考
えられています。前頭前野 は、最も効率的に作業を達成できるよう、うまく注意配分して
脳全体を有効活用 する働きを担っています。

 「ワーキングメモリ」 が優れているということはつまり、脳全体をうまく活用し、複雑な作
業を省力化して効率よく行う能力が高い
ことを意味しています。
 大脳 の一つの部位だけを使うことに集中せずに、他の多くの部位を効率的に使う こと
が出来ると、脳疲労が蓄積しにくくなる と考えられます。
 
 トレーニングによってスポーツが上達するように、訓練や習慣、経験によって「ワーキン
グメモリ」を鍛える
ことは可能です。「ワーキングメモリ」を強化 すれば、脳疲労を予防す
る体質 になることが可能だと考えられます。
 
  脳の神経細胞 は、領域によって担っている機能が違います。これを「局在性」 と言い
ますが、「ワーキングメモリ」 を使っていると、神経細胞は、認知運動感情記憶
など複数の機能を使いこなす「マルチプレーヤー」 として成長します。
 
 神経細胞がマルチプレーヤー になると、脳のある部位がダメージを受けてもホメオス
タシス が働いて脳全体の機能を保つ ことにつながります。

 例えば、65歳以上の高齢者の脳をMRI で撮影すると、小さな脳梗塞 が複数見つかる
ケースが多いのですが、自覚症状がない 場合がほとんどです。何故なら、脳梗塞で壊死
した神経細胞の機能を周囲の神経細胞が補い、助けながら担うようになる からです。

 脳梗塞などの脳血管障害が進むほど、ダメージを受ける神経細胞は増えて人の認知
機能は低下 していきます。これは脳血管性認知症 の一因ともなります。

 ところが、同程度の脳血管障害が進んでいる人たちの認知機能が同じレベルであるか
というと、そうではありません。認知機能が大きく低下する人と、そうでない人 がいます。
その違いは、神経細胞がどれだけマルチプレーヤー化 しているかが関係していると考え
られています。

 神経細胞の多くがマルチプレーヤー化 していれば、脳梗塞のような脳血管障害が同時
多発的に起こったとしても、互いに補いあった上での総合力で脳機能全体をカバーできる
ようになります。そうすれば、認知機能の低下を抑える ことができるわけです。

 このことは、脳の局在性 を生かすことを意味します。領域によって違った働きを担いな
がら、一つの部位がダメージを被ると他の部位でカバーすることは、脳の機能を維持して
脳疲労を予防 することにもつながります。

"記憶のタグつけ"
 「ワーキングメモリ」 は情報の処理を効率化するために、「記憶のタグつけ」 という作業
を行っています。一つの情報を記憶するときに複数の個性的なタグ をつけておくと、その
情報が必要になった時にワーキングメモリ が即座に検索するようになります。

 何かを記憶する時には、その情報はまず短期記憶として脳に保持 されます。この時点
ではまだタグつけは行われていません。
 
 脳はその短期記憶された情報にキーワードや重要度を設定 していきます。これが「記憶
のタグつけ」 と呼ばれる作業であり、「ワーキングメモリ」 の機能の一つでもあります。
 こうしてタグつけされた情報については脳が重要だと判断 し、長期記憶として大脳に保管
していきます。

 短期記憶 を司るのは脳の「海馬」 という部位です。海馬 は脳の中心部にあって、人の小
指ほどの大きさでタツノオトシゴ(別名が海馬)の形に似ているためにそう呼ばれていて、人
「記憶の指令センター」 の役割を担っていることが判明しています。

 海馬 は、刻々と脳にインプットされる情報について、「この記憶は重要だ」 と判断した内容
大脳皮質 に移します。それが長期記憶として保管 されていきます。

 ではこの時、海馬 は、どのようにして情報の重要性を識別 するのでしょうか。
 まず、繰り返しインプットされる内容 については重要だと判断 します。また、海馬の下に
ある「扁桃体」 という直径1cmほどの小さな器官も、重要性の判断に関与 していることが
知られています。

 扁桃体 は喜怒哀楽などの情動 や好き嫌い、快・不快などの感覚 を司っていて、それを
海馬 に直接伝える役割を担っています。つまり、いまインプットされた短期記憶 のうち、喜
怒哀楽や心を揺さぶられるような感動を伴った情報 があれば、扁桃体が察知して海馬に
「これは重
要だ」と伝達し、海馬はそれを長期記憶の保管庫である大脳皮質に移すという
メカニズム になっているのです。

 記憶は感情や感動に大きく影響される ということが、科学的に説明できるわけです。
 
"ワーキングメモリを鍛える3つの方法"
 一つ目は、記憶を有効活用 するために、物事を多面的に観る習慣 をつけることです。
 物事を多面的にみてタグつけする数が多い記憶ほど検索し易くなり、そこに感動が伴う
検索効率は更に向上 します。
嬉しい」「悲しい」「驚いた」「楽しい」「悔しい」・・・・・ 感動の種類は問いません。

 二つ目は、多くの人と会話をしてコミュニケーションを交わす ことです。
 人と会ってコミュニケーションをとる際には、相手の話を聞いて理解 しつつ、記憶と経験
を瞬時に検索
して引き出し、自分の意見 として相手に伝えます。それに対して相手からは
想定外の返事 がくる場合もあるでしょう。そうした状況に臨機応変に対応 し、会話のキャッ
ボール が楽しめるということは、ワーキングメモリを活用 しているからにほかなりません。

 三つ目は、世の中の色々な事象に興味を持ち、多趣味になる ことです。
 自分の趣味の領域には誰もが興味を持ちます。たくさんの趣味があるほど、様々な分野
の事柄に感動し易くなり、タグつけされた記憶 が増えていきます。
 
 趣味と言っても、高尚なものでもお金のかかるものでもなく、好物の食べ歩き、古いマッチ
の収集など、いわば自己満足の趣味 で十分です。感動は、そうした満足感に導かれるもの
と言えるからです。

 こうしてオリジナルなタグをつけた記憶 が増えれば、活発に自分らしく ワーキングメモリ
を使うことが出来るようになります。

 このことは、脳疲労を抑えながら、生き生きとした人生を送るための第一歩 になるはず
です。
                                                                                                         
                                                                      "すべての疲労は脳が原因"より抜粋

                             長々とお付き合いありがとうございました