従来の医学では、ケトン体 は悪者だと評価されてきました。その理由は、糖尿病患者
さんの病態が悪化した時のマーカー として用いられてきたからです。

 糖尿病患者さんに特有の「糖尿病性ケトアシドーシス」 と呼ばれる合併症があります。
通常はph7.4 ( ± 0.05 )に保たれている血液が、大量に放出されたケトン体で急激
酸性アシドーシス)に傾くと、意識障害や呼吸不全 の原因になります。

 糖尿病が進行すると、インスリンが効かなくなって細胞にブドウ糖を取り込めず、血糖
値が300~500 ㎎/㎗という危険な状態になります(通常は140㎎/㎗以下)。
この細胞内飢餓 を解消するために、グルカゴンやカテコールアミンといったホルモンが
分泌されて脂質の分解 を促進、大急ぎでケトン体 を作り、細胞に供給します。

 このため血液中にケトン体が大量に分泌されるのです。ケトン体は酸性物質 なので通
常は中和されるのですが、急激に分泌されると中和することができず、血液が酸性 に傾
いて意識障害や呼吸不全 の原因となるのです。

 糖尿病性ケトアシドーシス は主に、インスリン注射 が必須の1型糖尿病 の患者さんに
よる、注射の打ち忘れや合併症の発症 によって起こります。2型糖尿病 ではインスリン分
泌能は完全に破綻しているわけではないので、細胞内飢餓に基因する糖尿病性ケトアシド
ーシスの心配はありません。

”4つのステップで食生活を組み立てる”
ステップ 1  糖質の摂取を制限する
 ケトジェニックダイエット の基本となるのは糖質制限 です。ダイエットと名前が付くとカロリー
を制限したくなりますが、ケトジェニックダイエットではカロリーはとくに制限しません。糖質で
カロリーを摂り過ぎていた場合、糖質を制限すると本来のカロリー摂取まで減らせるはずです。
肥満ホルモンのインスリン の大量分泌がなくなり、体脂肪をケトン体として代謝 できるように
なるので、カロリー制限をしなくても体重は落ちてきます。

ステップ 2  タンパク質の確保 (肉類、魚介類、大豆製品、卵など)
 糖質を制限すると筋肉量 が減り易くなります。血糖値 を維持するために筋肉を構成してい
るタンパク質のアミノ酸 が肝臓で糖質に変わる糖新生 が起こり、筋肉が分解され易くなるか
らです。筋肉が減らないように、原料となるタンパク質 はしっかり補いましょう。

ステップ 3  食物繊維、ミネラルの確保 (野菜、キノコ類、海藻類、果物など)
 ケトジェニックで機能性医学的な視点から見て体内環境を健全な状態に保つには、食物繊
維とミネラルの摂取 が欠かせません。

ステップ 4  オメガ3脂肪酸を確保する
 現代人はリノール酸 などのオメガ6脂肪酸 の摂取量が多すぎて、相対的にα-リノレン酸 など
オメガ3脂肪酸 の摂取量が少なくなった結果、体内の炎症 が強くなる方向に傾いてしまいま
す。もしもアレルギー疾患 があれば症状は悪化 します。それを是正するのが最終ステップ4の
狙いです。

”目安は1週間”
 初めてケトジェニックダイエットを実施するときは、まずは1週間を目安に試してみます。すると
糖質 を主体としたエネルギー代謝から、ケトン体 を主体とする本来のエネルギー代謝への変化
が起こります。これをケトジェニックシフト と呼びます。

 ケトジェニックシフト がスムーズに起これば、脳の神経細胞や筋肉の細胞 など、身体の全ての
細胞がケトン体をエネルギー源 として活性化しますから、頭も身体も内側から元気 になって賦活
されます。

 馴れないうちはケトジェニックシフト に身体が対応できないケースもあります。食べ物の変化で
腸内細菌 の勢力図が変化するのです。糖質中心の食事が急激に変わると腸内環境 が一時的
に混乱して、それによって便秘や下痢 が起こることがあります。

 ケトン体生成 のために体脂肪の分解 が亢進されると、体脂肪に溶け込んでいた脂溶性の有害
が一気に出て、その結果として頭痛、皮膚のかゆみ、疲労感 などが生じることもあります。こ
れらの不快な症状は1週間程度で軽減しますが、それ以上続く場合にはケトジェニックダイエット
中止します。また、不調 が続けば、医療機関で念のためにメディカルチェック を受けるようにして下
さい。
 
”栄養バランスをどのように摂るか”
・毎日必ず摂るべきグループ
 グループ1  肉類、魚介類、大豆・大豆食品、卵
   ケトジェニックダイエットで最も大切な栄養素がタンパク質 。肉類、魚介類、大豆・大豆食品、
  卵などのタンパク源には脂質(脂肪酸)もふくまれています。タンパク源によって含まれる脂肪酸
  の性質が異なりますから、1日のうちでそれぞれを1回ずつ摂ると脂肪酸のバランスが整い易く
  なります。

 グループ2  野菜(根菜を除く葉野菜)、海藻類、キノコ類、果物
   代謝 を円滑にするビタミンとミネラル、有害な活性酸素 を処理して酸化の害を抑えるポリフェ
    ノー
などのフィトケミカル腸内環境 を整える食物繊維 の供給源となります。
  レンコンやゴボウなどの根菜 は糖質が多いので除外。果物 もバナナやリンゴのように糖質が多
  いものは摂取量をセーブ します。

 グループ3  オメガ3脂肪酸、中鎖脂肪酸
   オメガ3脂肪酸 は体内で合成できない必須脂肪酸 ですから、食品から毎日欠かさずに摂るよ
  うにします。アジやサバなどの青魚アマニ油エゴマ油 などに含まれています。
   中鎖脂肪酸 はケトン体を増やして抗酸化、認知機能を上げたい時に必要で、ココナツオイル(オ
  イル、ミルク)に含まれています。

・過食に気を付けて食べるグループ
 グループ4  ナッツ類、オメガ9脂肪酸
   クルミ アーモンド といったナッツ類にはビタミン、ミネラル、食物繊維、オメガ3脂肪酸が含ま
     れています。カシューナッツ のように糖質が多いものは食べ過ぎに注意が必要です。
     オメガ9脂肪酸 オリーブオイル、キャノーラ油、ヒマワリ油 などに豊富に含まれるオレイン酸
    
が代表格です。オリーブオイルのエキストラ・バージンタイプには抗酸化力 を持つフィトケミカル
     豊富です。

 グループ5  イモ類、根菜類
   イモ・根菜類はビタミン、ミネラル、食物繊維 が多く、酸化を防ぐ抗酸化作用 も上々ですが、糖質
  がデンプン として多く含まれており、血糖値を上げ易いため、ケトジェニック体質 を作る上では控え
  るのが賢明でしょう。その分、葉野菜 の摂取を増やすようにして下さい。

 グループ6  牛乳・乳製品
   牛乳、ヨーグルトやチーズなどの乳製品はタンパク質 を含み、ビタミンD,カルシウム、マグネシ
  ウム といった不足し易い栄養素にも富んでいます。しかし、牛乳やヨーグルトには乳糖 という糖質
  も含まれるため、摂り過ぎると血糖値 が上がり、ケトジェニック体質作りを阻害 する恐れがありま
  す。

・なるべく避けるグループ
 グループ7  穀物、オメガ6脂肪酸
   穀物とは、デンプン という糖質を主体とする植物の種子稲、小麦、トウモロコシ は世界3大穀物
  であり、米、小麦粉から作られるパン、うどんやパスタなどの麺類、トウモロコシ粉から作られるシリ
  アルやトルティーヤは主食として長らく人々を飢餓の危機から救ってきました。しかし、糖質過多
  現代人は穀物 を食べ過ぎると血糖値が上がり易く、慢性疾患 のリスクとなります。摂るときは精製
  が低くて食物繊維 が多いホールフード を選ぶようにしましょう。
   
   オメガ6脂肪酸 を過剰に摂取してオメガ3脂肪酸 とのバランスが崩れると、炎症性の疾患 が起こ
     り易くなって悪化したりします。コーン油、ハイオレイックではない紅花油(サフラワー油)、大豆油、こ
  れらを混合したサラダ油 などに多いリノール酸 が代表格。リノール酸は加工食品インスタント食
     品
揚げ物ファストフード などに多く含まれています。

・積極的に避けるグループ
 グループ8  お菓子、清涼飲料水、砂糖
   お菓子、清涼飲料水、砂糖はともに糖質が多く、血糖値 を急激に上げて肥満 などの慢性疾患に
  直結しますから、ケトジェニック体質 を作るうえで積極的に避けるべきです。
   
   要注意なのは、異性化糖(ハイフルクトース・コーンシロップ)。果糖ブドウ糖液糖 ブドウ糖果糖
  液糖 があり、ともにトウモロコシ を原料に砂糖よりも安価に製造できるため、お菓子や甘い清涼飲
  料水に盛んに添加されています。異性化糖は吸収が早く血糖値を上げるほか、糖化 も起こり易く、
  また、果糖 は肝臓で体脂肪として蓄積され易いので脂肪肝 の原因となります。
   
   最近では健康志向を背景に、異性化糖の代わりに血糖値を上げない人工甘味料 が使われるよ
  うになってきましたが、でも小腸 でも分解されないため、大腸 悪玉菌のエサとなって腸内環境
  を乱します。

   お菓子で注意すべきなのは、トランス脂肪酸 です。液体の植物油に水素を加える加工をして人工
  的に固形化したもので、「食べるプラスチック」という異名を持ち、マーガリンファットスプレッドショ
  -トニング などに含まれています。体内で慢性的な炎症 を起こし易く心臓病や肥満 のリスクを上げ
    ることが知られています。

                                            ”慢性病を根本から治す” より抜粋