体質とは何か?
 体質 とは何でしょう。実は「体質」 という言葉は最近の医学書には登場しません。昔はその人の体に本来備わった
特徴を「体の性質=体質」 と呼んでいました。例えば虚弱体質 といえば、顔色が悪く、痩せて体力が無くて、病気に
なり易い人のことです。

 さて、体質 がその人の体に本来備わった特徴のことであるなら、一生を通じて変わらないはずです。しかし実際に
は、これまで何ともなかった人が突然花粉症になった、ランニングに打ち込むようになったら風邪をひかなくなった、と
いう様に、体質が変わったとしか考えられない現象が起こります。

 辞書を引いてみましょう。「大辞泉」は体質をこう定義しています。
 たいしつ [ 体質 ]
  1 からだの性質。遺伝的素因と環境要因との相互作用によって形成される、個々人の総合的な性質。
    「風邪をひき易い体質」「特異体質」

 注目してもらいたいのが「遺伝的素因 環境要因 との相互作用によって形成される」という部分です。体質とい
うと、生まれつき備わった遺伝的素因 だけに目を向けがちですが、環境要因 も体質に大きな影響を及ぼすと考え
られていることがわかります。

 ここでいう環境要因 は、食生活喫煙気候細菌ウイルス紫外線運動ストレス睡眠 など、体に影響を
与えうる全ての出来事と行動を含みます。実は、この定義は、病気が起きる原因について昔から医学者たちが考え
てきたものと同じなのです。

日本人は頑張って筋トレしても”やせ体質”にはならない 
 無酸素運動 は、大きな負荷をかけて瞬間的に力を入れるダンベル体操やスクワット、腕立て伏せなどの運動を繰
り返すトレーニングで、筋肉が付くと基礎代謝量 が増えることがわかっています。基礎代謝 とは、心も体も安静 にし
ている時に消費する必要最小限のエネルギーのこと。

 無酸素運動 をしっかり行うと、その後、約48時間にわたって基礎代謝が高い状態が続くことから、「筋力トレーニン
グで”やせ体質”になれる!」と言われるようになりました。
しかし、理屈どうりにはいかないものです。問題は、日本人は欧米人と違って簡単に筋肉がつかない ことです。

 人の筋肉は筋線維 という細い線維が集まって出来ています。この筋線維には赤と白 の2種類があrって、い筋
線維は「赤筋」または「遅筋」といい、ゆっくりと長い時間 にわたって働くことが出来ます。そしてい筋線維は「白筋
または「速筋」と呼ばれ、瞬間的 に大きな力を発揮できるのが特徴です。

 この赤筋と白筋がはっきりわかるのが、です。赤身の魚は筋肉の大部分が赤筋 で出来ていて、その代表が
グロ です。マグロはそのおかげで広大な太平洋を回遊 しながら成長を続けます。それに対して白身の魚の代表が
ヒラメ。普段は海底でじっと横たわって いますが、獲物となる小魚を見つけると、素早く 追いかけて捕まえます。

 人間の筋肉は赤筋と白筋が色々な割合で混じり合っているので、魚と違って、肉眼で赤か白か見分けることはで
きません。

 赤白どちらの筋線維が多いかは個人差もあるものの、それ以上に大きいのが人種 による違いです。例えば白筋
の合成に関連する遺伝子に変異があると、白筋を作りにくくなります。
白筋の合成が少ない人 アフリカ 系では 3~10%しかいませんが、欧米白人は20%、アジア 系では30%以上
にのぼります。この結果、人種ごとに平均すると、アフリカ系 の人が筋肉全体の約70% 白筋 であるのに対し、
欧米白人 50~60%が白筋日本人 を含む黄色人種は逆に70%が赤筋 と言われ、アフリカ系の人がオリン
ピックの短距離走 で活躍するのはこの為と考えられています。

 但し、一口にアフリカと言っても広大で、暮らす人の体質も様々です。同じアフリカ系でも、エチオピアケニア など
の東アフリカは、白筋が出来にくい遺伝子変異 を持つ人が40%を占めるというデータがあるそうです。白筋が弱い
分、赤筋が発達 していることが、東アフリカ勢のマラソン の強さを支えている可能性があります。

 この赤筋と白筋の割合はトレーニングによってある程度変化しますが、大きく変わることはありません。鍛えること
で太くなるのは大部分が白筋 なので、日本人 が筋肉をつけようと思ったら、もともと少ない白筋を集中的に鍛える
ことになります。これは効率が悪いうえに、苦労して筋肉を1kg増やしても基礎代謝量 の増加は1日あたりせいぜい
20kcal 、わずかキャラメル1粒分のカロリーです。

 これによる体重の減少は年に1~2kg とされています。体力があって、プロ並みのトレーニングを続けられる人で
あっても、筋力トレーニングだけで基礎代謝を十分高めるのは難しいでしょう。

 そして、基礎代謝 には意外な側面があります。実は筋肉だけでなく脂肪組織 もエネルギーを消費しているので、
脂肪が1kg 減ると基礎代謝量 が1日あたり5kcal 下がります。つまり、激しいトレーニングを通じて筋肉を1kg 増や
し、脂肪を2kg 減らしたとすると、基礎代謝量 の増加は差し引き10kcal になってしまうのです。

 これでは話になりません。筋力をつけるのは大切ですが、筋力トレーニング をしても”やせ体質” にはなれない
ということです。せたければ、カロリーの総摂取量 を減らすとともに、日常生活のなかで体をこまめに動かして
カロリー消費
を積み重ねる方が確実です。

                                                                                                                             ”  日本人の「体質」” より抜粋