医学 には興味深いことが沢山あります。
 例えば、昔話 に出てくる 「 一つ目小僧 」 と 「 三つ目小僧 」 は、医学的な意味合いがまるで違い
ます。 前者 は実際に存在しますが、後者 はあり得ないということです。

 これは、赤ん坊 の目が、どのようにして出来るかを考えればわかります。 もともと 胎児 の目は、
最初、 の真ん中に のもとになる組織が一つできて、それが徐々に左右に分かれて 両目 にな
るのです。 だからこの過程に トラブル が起こると、が一つの 赤ちゃん が生まれます。

 いわゆる 「 単眼症 」 です。 英語では、「 サイクロピア(cyclopia)」。 ギリシャ神話 に出てくる
つ目 の巨人、「 キュクロプス 」 に由来しています。

  架空 の生物には、こうした実在のモデルがあるものが少なくありません。 ハプスブルク家の紋章
に描かれた 双頭の鷲 なども、いわゆる鷲の シャム双生児(「結合双生児」) で、一つの身体に二つ
の頭のある鷲がきっと実在したのでしょう。

 他に、私が面白いと思うのは、アルコール を飲んだ時にトイレに行きたくなる理由です。 アルコー
ルには 利尿作用 はありません。 あるのは 「 抗利尿ホルモン 」 の 分泌 を抑える働きです。 抗利
尿ホルモン というのは、文字通り 利尿 に抵抗する、即ち、尿 をあまり出さないようにする ホルモン
です。 

 尿 が出ないと困るのに、何故そんな ホルモン があるのでしょう。 それは、脱水 になるのを防ぐ
ためです。

 腎臓 は血液中の 老廃物 を捨てるため、つい 尿 を作り過ぎてしまいます。 それに ブレーキ をか
けるために、の 「 下垂体 」 というところから、抗利尿ホルモン が出るのです。 アルコール はそ
の分泌を抑えるため、ブレーキ ブレーキ がかかって、結果、オシッコ が増えるという訳です。

 では、何故 アルコール を飲むと、抗利尿ホルモン が抑えられるのでしょう。 それはやはり、アル
ール 身体 に良くないからだと思います。 早く 体外 に排出するために、身体はどんどん 尿
出させるのです。

 そんなことを考えながら、ビールを飲んで トイレ に行くと、ああ、身体 はしっかり働いてくれている
なと
感じます。

                                                                                   久坂部 羊 著 ” カラダはすごい! ” より