先週の コラム で 高齢期 の サルコペニア加齢性筋肉減少症 )は カロリー制限
動不足 が 発症 の 要因 であると紹介した。 予防 のため 筋トレ レジスタンス運動 )が
有効であることが 知られているが、やり過ぎ は かえって 筋持久力 を 低下 させる 可能性
が 報告 され 話題 を呼んでいる。

 スイス の バーゼル大バイオセンターの クリストフ・ハンチン博士 らの 研究チーム は
筋肉 で 分泌 される BDNF脳由来神経栄養因子 )に 着目した。

 BDNF は 脳 と 筋肉 にそれぞれ 作用 するものがある。 研究チーム は BDNF が 筋繊
維 を 遅筋( 赤筋 )から 速筋( 白筋 )に 変換 する 生理作用 に 注目。
遅筋 は マラソン などの 有酸素運動 で使われる 持久力 に 関連 した 筋繊維、一方、速筋
グルコースブドウ糖 )を 代謝 し 瞬間的 な 筋力 に関連している。

 サルコペニア は 加齢 に伴う BDNF の 減少で 速筋 が 減る ことが 原因 と考えられてい
て、筋トレ BDNF の 分泌 を 増強するので サルコペニア に 有効 と考えられている。

 研究チーム が、ネズミ の 筋肉 に BDNF が 分泌されないように 遺伝子操作 すると、速筋
が 減少し 遅筋 が増加、筋力 が 低下し 歩行速度 も減少した。 しかし ネズミ は 高齢期 に
なると サルコペニア が 緩和 され、逆に 筋持久力 が 増加した。 博士は 高齢期 の サルコ
ペニア に対する 生理学的代償 として BDNF が減少している 可能性 を考察する。

 博士 の 主張 が 正しい とすれば、若い頃 は 筋力、高齢期 は 持久力 で 運動 パフォーマ
ンス を維持するのが 加齢 に適した 運動処方 かもしれない。 今回の研究で 筋トレ
り過ぎ が かえって 筋持久力 を 低下させるという 知見 が 科学的 に裏付けられた。
 
 高齢期 の 運動パフォーマンス を 維持するのに、どの程度の 割合で 筋トレ有酸素
運動 を 組み合わせる のが 最適 かに関しては更なる 研究 が必要だろう。

                                                  (白澤卓二・お茶の水健康長寿クリニック院長)

             新聞コラム Dr. 白澤 ” 100 歳への道 ” より